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TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON1
放送&世界配信開始記念

第1回特別鼎談インタビュー
【テーマ:シナリオ】 原作:幸村誠
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監督:籔田修平
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シリーズ構成 / 脚本:瀬古浩司

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON2が2023年1月から放送決定!
さらに、SEASON1が本日より放送開始、そして、配信中のAmazon Prime Video に加えてNetflixでの世界配信を記念して、シナリオをテーマに原作:幸村誠×監督:籔田修平×シリーズ構成 / 脚本:瀬古浩司の特別インタビューを公開。

SEASON1制作裏話や見どころ、SEASON2に繋がる内容など、ここだけの貴重なお話が盛り沢山です。是非、ご覧ください!

※本記事にはSEASON1の内容のネタバレが一部含まれているので、ご注意下さい。

写真左から:監督・籔田修平、原作者・幸村誠、シリーズ構成 / 脚本:瀬古浩司

第1回特別鼎談インタビュー 後編

INDEX

SEASON2新キャラクター、エイナル

――SEASON2に向けてのお話を伺えればと思います。

幸村
僕が原作で農場編を描く上で考えた物語上の背景やキャラクターたちの人物像をより厚くして描いていただいています。各人物がここに至るまでにどのように過ごしてきたのかを丁寧に表現してくれているので、繰り返しになりますが原作者としてはとても助かっています(笑)。
籔田
SEASON2の序盤のキーパーソンは、やはりエイナル。原作を読んだときの彼の強さが印象に残ったので、シリーズ構成をするときに瀬古さんと、「彼の強さはどこからくるのだろうか?」という部分から話し始めました。その強さの源が自分たちで納得しきれないと始められないという思いがありました。
瀬古
構成に入る前の段階でSEASON1よりも時間を掛けましたね。トルフィンとエイナルの関係性が出来上がっていく過程を原作とちょっと変えたりしているので、そこをどうするかをかなり話しました。
籔田
農場編はアニメのSEASON1とも雰囲気が異なるし、物語のペースも違うし、何よりも他のアニメにはないような珍しい感じになっているので、原作読者以外の方に届けて楽しんで観てもらえるにはどうするべきかを悩んで、とても長い時間を掛けて話し合いました。その一つに、SEASON1から引き続き出てくるトルフィンが今どういう状態にあるかを正しく把握することが必要でした。彼の中に凶暴性がどれだけ残ってるのか、かなり細かく詰めていかないとキャラクターとして動かせなかった。瀬古さんがおっしゃった関係性の部分については、物語としての見やすさに関わってくるので、エンターテイメント性に関わる要素としてとても重要な部分でした。そこにきちんと時間をかける事ができたのは良かったです。シリーズ構成ができた段階で、ある種の手応えを感じました。
幸村
脚本を拝読したときに、籔田監督と瀬古さんがすごく悩んで、エイナルに心を配ってくれて、ご自身の中でエイナルをどう消化して送り出そうとしているのかが伝わって来ました。
籔田
大きく目指したのは原作から感じられたエイナルの強さと優しさです。それをどう紐付けてエイナルというキャラクターを作るか。序盤、トルフィンとの接し方は表面的には原作と変わっているのですが、根っこのところで変えているわけではなく、原作のエイナルを目指す過程でアレンジをしたシーンが生まれたと捉えていただければと思います。
瀬古
そうですね。最終的には原作のエイナルとトルフィンの関係性に着地します。なんとかあの2人に着地したいということに心を砕いた感じですね。
籔田
暴力が正当化される時代、奴隷なのにあの強さと明るさと優しさを持っているエイナルって、超人だと思います。彼がそんな人物なのは何故なのか、考えずにはいられませんでした。それだけ格好良いキャラクターです。僕は幸村先生と直接お話しさせていただく機会を得たのはSEASON1の制作が始まってからですが、先生はナチュラルにエイナルという人物を描ける方なんだろうなと思いました。
幸村
今、お話を聞いていてドキっとしました(笑)。確かに僕はエイナルを超人だと思っていませんね。言われてみれば、たしかに明るくいられるような状況ではありませんよね……。そうか、エイナルは超人だったんだ……。言われてみればそうだな……。
籔田
境遇でいえば、トルフィンよりも酷いですよね。親の仇の直接的な相手ではないにせよ、暴力の象徴であるトルフィンに対しての接し方や前向きに逞しく生きていこうとする姿。やっぱり超人だと思います。それが幸村誠という作家の強さでもあると思います。逆に言えば、僕にはそれがないから、エイナルを現実に存在させるためには瀬古さんとの長い話し合いが必要だったというわけです。
「ヴィンランド・サガ」に込めたメッセージ

――世界的に暴力が広がる今、アニメを通じてそうした人物たちのドラマを届ける意味をどのように捉えていますか?

籔田
夢物語だとか理想主義だと言われるかもしれませんが、それを伝えようとする意思を持つ人間がいなくなることの方が恐ろしいと思っています。世の中には悪いことをする人もいますが、善人も絶対に滅びることはない。そういう理想を語る人間が必要だと僕は思います。その気持ちを持っていないと「ヴィンランド・サガ」というアニメを作ってはいけない。それが今の時代にこの作品を作る意味だと思っています。
幸村
人が生きる上では目的地が必要だと思うんです。それがないと何をすれば良いか迷ってしまうし、生きていけない。それは何かというと、理想だと僕は思います。どうせ設定しなければならないのであれば、思い切り遠い所に置いて素敵な理想を描いた方が、生きていく上での飽きることのない目標になるのではないかと思います。
瀬古
先程、幸村先生が「暴力は大嫌いだ」とおっしゃったように、僕も暴力は嫌いだし、それ以上にとても怖いです。先日、ラッセル・クロウ主演の『アオラレ』(原題:『Unhinged』、2020年製作)という映画を観たのですが、この主人公はすべてを失った人物で、「俺に残っているのは暴力だけだ」って言って人を殺すんです。すべてを失った人間、あるいは失うものがない人間に最後に残されるものが暴力だとしたら、それを法で縛ることは不可能です。そして人間の歴史はそっくりそのまま暴力の歴史だと言えます。人間と暴力は絶対に切っても切り離すことができない。であれば、我々一人一人がどうやって暴力に向き合うかをきちんと考える必要があるんじゃないかと感じています。とくに大小さまざまな暴力が横溢するこの現代においては。そして、その「暴力」というものに真正面から挑んで、答えを出そうとしているのが「ヴィンランド・サガ」なのではないかと思います。SEASON2ではその答えの一部までしか出せませんが、最終的にこの物語がどんなところに着地するか、そして幸村先生の言う「遠い所に置いた理想」がどんなものになるのか、僕も非常に楽しみにしています。ここまで「暴力そのもの」を正面切って語ろうとする作品は本当に稀有だと思うので、それが世界にどのように届くのか楽しみです。
籔田
最近の情勢下ですと、もっと「ヴィンランド・サガ」の話をしなければと思うことが増えますよね。
幸村
瀬古さんが繰り返してくれたように、僕は暴力が大嫌いです。だからこそ、暴力に対してどうすればいいかを一生懸命考えて作品に落とし込もうとしています。アジアのはずれに住む一人のマンガ家が「甘ったれたこと言うな」という批判もあるかもしれないけれど、でもやっぱり言わないといけない。先日、SNS経由でウクライナの読者の方からメッセージをいただきました。「私は現在、避難している最中にいます。“本当の戦士”ならこんなとき、どうすればいいでしょうか」と。僕なんかよりもずっと過酷な経験をされていますから、答えていいか迷いましたが、こう答えました。「“本当の戦士”だったら、戦争の最中にも一生懸命に仲直りすることを考えていると思いますよ」と。

――暴力と対照的な存在が麦畑だと思います。農場編がこの時代に放送・配信されることで世界中の方が何かを考えてくれるきっかけになりそうですね。

籔田
作中において、土を耕したり麦などの作物を育てることは、人の生産的な営みとして描いています。現段階で言えるのは、それがこの先の「ヴィンランド・サガ」という物語ではどのように変わっていくか。今後に向けてのスタートラインの1つだと思いますので、ぜひ世界中の多くの方にご覧いただければと思います。