――世界的に暴力が広がる今、アニメを通じてそうした人物たちのドラマを届ける意味をどのように捉えていますか?
- 籔田
- 夢物語だとか理想主義だと言われるかもしれませんが、それを伝えようとする意思を持つ人間がいなくなることの方が恐ろしいと思っています。世の中には悪いことをする人もいますが、善人も絶対に滅びることはない。そういう理想を語る人間が必要だと僕は思います。その気持ちを持っていないと「ヴィンランド・サガ」というアニメを作ってはいけない。それが今の時代にこの作品を作る意味だと思っています。
- 幸村
- 人が生きる上では目的地が必要だと思うんです。それがないと何をすれば良いか迷ってしまうし、生きていけない。それは何かというと、理想だと僕は思います。どうせ設定しなければならないのであれば、思い切り遠い所に置いて素敵な理想を描いた方が、生きていく上での飽きることのない目標になるのではないかと思います。
- 瀬古
- 先程、幸村先生が「暴力は大嫌いだ」とおっしゃったように、僕も暴力は嫌いだし、それ以上にとても怖いです。先日、ラッセル・クロウ主演の『アオラレ』(原題:『Unhinged』、2020年製作)という映画を観たのですが、この主人公はすべてを失った人物で、「俺に残っているのは暴力だけだ」って言って人を殺すんです。すべてを失った人間、あるいは失うものがない人間に最後に残されるものが暴力だとしたら、それを法で縛ることは不可能です。そして人間の歴史はそっくりそのまま暴力の歴史だと言えます。人間と暴力は絶対に切っても切り離すことができない。であれば、我々一人一人がどうやって暴力に向き合うかをきちんと考える必要があるんじゃないかと感じています。とくに大小さまざまな暴力が横溢するこの現代においては。そして、その「暴力」というものに真正面から挑んで、答えを出そうとしているのが「ヴィンランド・サガ」なのではないかと思います。SEASON2ではその答えの一部までしか出せませんが、最終的にこの物語がどんなところに着地するか、そして幸村先生の言う「遠い所に置いた理想」がどんなものになるのか、僕も非常に楽しみにしています。ここまで「暴力そのもの」を正面切って語ろうとする作品は本当に稀有だと思うので、それが世界にどのように届くのか楽しみです。
- 籔田
- 最近の情勢下ですと、もっと「ヴィンランド・サガ」の話をしなければと思うことが増えますよね。
- 幸村
- 瀬古さんが繰り返してくれたように、僕は暴力が大嫌いです。だからこそ、暴力に対してどうすればいいかを一生懸命考えて作品に落とし込もうとしています。アジアのはずれに住む一人のマンガ家が「甘ったれたこと言うな」という批判もあるかもしれないけれど、でもやっぱり言わないといけない。先日、SNS経由でウクライナの読者の方からメッセージをいただきました。「私は現在、避難している最中にいます。“本当の戦士”ならこんなとき、どうすればいいでしょうか」と。僕なんかよりもずっと過酷な経験をされていますから、答えていいか迷いましたが、こう答えました。「“本当の戦士”だったら、戦争の最中にも一生懸命に仲直りすることを考えていると思いますよ」と。
――暴力と対照的な存在が麦畑だと思います。農場編がこの時代に放送・配信されることで世界中の方が何かを考えてくれるきっかけになりそうですね。
- 籔田
- 作中において、土を耕したり麦などの作物を育てることは、人の生産的な営みとして描いています。現段階で言えるのは、それがこの先の「ヴィンランド・サガ」という物語ではどのように変わっていくか。今後に向けてのスタートラインの1つだと思いますので、ぜひ世界中の多くの方にご覧いただければと思います。