SPECIAL

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TVアニメ「ヴィンランド・サガ」

クヌート役 小野賢章
インタビュー

王家に生まれるも、宮廷での政争を間近に見て育ったがゆえに他人に一切心を開かない臆病なデンマークの第2王子・クヌート。そんな彼が唯一心を許し、育ての父として慕っていたラグナルの死をきっかけに、王としての道を歩みだす。そんな物語の後半の重要人物であるクヌートを演じた声優・小野賢章さんに第18話「ゆりかごの外」の覚醒シーンへどのように臨んだのか、今後の見どころとともに伺いました。

役者仲間でも噂になっていた“スゴいマンガ”

――小野さんが原作に触れたのはどのタイミングでしたか?

小野
声優仲間の間で以前から、“スゴいマンガがあるぞ”と、話題になっていました。そのあと、この作品のオーディションを受けるにあたって読んだ際に、そのときの記憶と繋がって、「そうだ、あのとき言われていたマンガだ!」と気づいたんです。

――お読みになっての印象はいかがでしたか?

小野
哲学的だし、とにかく絵力がものすごく強いなと思いました。僕は仕事を離れてもわりとマンガは読む方なのですが、この作品の一コマ一コマの描き込みにかける力の入れようには、ただただ驚くばかりでした。衣装とか髪の毛の描き方とかスゴいですからね! 歴史モノということで、自然や文化などの考証を踏まえた設定とその描き込み、最初にそれを決めて描き続けるのはとても大変なことだろうなと思いました。刊行が比較的ゆっくりめのペースなのも納得しました。

――小野さんはマンガを読まれる時にどんな読み方をされますか?

小野
基本的には自分が受ける役を中心に読んでいきます。この作品もそうでした。ただ、クヌートは出てくるまでしばらくあったので、それまでは意識せず読み進めていきました。

――役柄に臨まれる際、特に大事にされていることは?

小野
第一印象を大事にしています。キャラクターの絵と資料に書かれている性格などの情報から、自分の直感を信じて組み立てていきます。クヌートの場合、弱気でトルフィンと対照になる人物なのかなというのが最初の印象でした。でも、そのあと彼は“覚醒”していきます。オーディションでもその両方のセリフが求められていたので、そこをどうしようかなと悩んで臨んだ記憶があります。

――トルフィンがともに行動するようになって、その対照さがあらわになりますよね。

小野
そうなんです。トルフィンは野性味が強い不良少年のような感じに対して、クヌートは王族で気弱で口数が少ない。トルフィンに煽られても、王族としてのプライドは見せつつも、ある種の諦めをもった反論の仕方でしたね。
「人としての成長がある人物はやり甲斐があります」

――その後、覚醒してからのクヌートはガラッと印象が変わりました。どのような印象を受けましたか?

小野
このシーンを読んで、非常にやり甲斐がある人物だなと思いました。彼の人生、このまま気弱でいくと死にゆく未来しかありません。でも、この出来事によって「自分が世界を変えていかねば」という自覚が芽生えてきた。そう感じたのでとても印象に残っています。

――小野さんにとってやりがいのある役柄って?

小野
やはり、彼のように人としての成長がある人物はやり甲斐があります。視聴者も、作品を通じてその世界の出来事や人物を見ていく中、成長や変化が何も起きないと飽きてしまうと思うんです。僕自身、演じていく役の中で一緒に変化し成長していけたらいいなといつも思っています。

――クヌートに変化を促すにあたり、ラグナルという存在とその死が大きかったかと思います。小野さんは彼らの関係性をどのように読みましたか?

小野
クヌートにとって唯一、心を許していた存在がラグナルだと思っていたので、その表現は分かりやすく演じたほうがいいなと思いました。お芝居ではなく、普通に生活していても、家族とか友人に対してと仕事相手先では違いますよね。ラグナルに対しては、おどおどしたりせずに普通に会話をしているように心がけました。

――アフレコ現場のようすをお聞かせください。

小野
トルケル役の大塚明夫さんだったり、アシェラッド役の内田直哉さんが予想もつかないようなお芝居をされるので毎回面白かったですね。僕自身は収録までに原作を全て読んでから向かい、まだあまりセリフが多くないなかで現場でのやりとりを見ていました。クヌートの場合はわりと逆算して、覚醒した際、視聴者にガラッと変わったなというところを印象的に見せたほうがいいなと思ったので、そのときに技術的な部分や心情を含め自分が最も安定してお芝居ができるような体勢で臨みました。

――監督からは何か言葉がありましたか?

小野
一番よく言われていたのは、王子としての貴族感を大事にということですね。言葉の節々やニュアンスに彼のプライドだとか、「一般人とは違うんだぞ」というところを明確に出してほしいということを仰っていました。
クヌートの内面の変化をしっかりと芝居で表現したい

――では、第18話でクヌートが覚醒する際のお芝居のようすをお聞かせください。

小野
彼の覚醒するシーンはオーディションにもありました。そのときはまだ作品全体を詳しく理解していたわけではなかったし、今もできているかどうか自分でも分かりません。ただ、ここで見せられたらいいなと思ったのは、信じていたものが実はまったく違っていた、ということによる彼の変化ですね。

――“愛”についての哲学ですね。

小野
はい。クヌートは、キリスト教の考え方の中にある「人間同士は愛で分かり合える」ということを信じていました。しかし、ラグナルの死であったり、自分が父王から命を狙われていく境遇のなかで、「人間の心には愛がない」ということを悟り、それが神への恨みに変わっていってしまいました。唯一自分の事を本当に愛してくれていたと思っていたラグナルが死に、しかしそれすらも本当の愛ではなく、差別だったと分かり、「神はなんと残酷な世界を作ったんだ」という恨みへと繋がっていく。そうした彼の一連の流れがしっかりと演じることができたらいいなと思いました。実際、表情もどんどん変わっていきます。

――そのあとにはさらに決意に満ちた表情とともに、「王の務め」という言葉も発します。

小野
おそらく、この時点で今後の自分の行動について決意を固めていたのではないかと思います。目的を遂行するために、なりふり構っていられないし、人の痛みすら意に介さない、と。そうすることによって、王としての振る舞いが自然についてくるのではないかと思いました。この後の芝居も楽しかったです。悟ってから覚醒するというひとつの山場を越えて、品格を持った王として人々を引っ張っていく人物になっていきます。現場では大塚明夫さんから「変わったねぇ~」と言っていただけました。あとはご覧になった視聴者の方がどのように感じてくれるのか、ドキドキしています。「オマエ、別人やん!」って言われたらどうしよう(笑)。

――そこは作中でも周囲の人物が驚いたり戸惑っていたりしましたから(笑)。このあと役者として視聴者に注目して見たり聞いたりしていただきたい部分は?

小野
このあとのクヌートの歩みをしっかりとご覧いただきたいですね。彼は暗殺されて終わる人生だったはずが、自らの目的を見つけ世界をひっくり返そうと志して、どんどん前に進んで行きます。これまで『ヴィンランド・サガ』は、暴力がモノを言うお話が続いていきましたが、ここから知略や策略で戦うシーンも増えていきます。ここからのクヌートは、見ていて気持ちが良いと思います。

――最後に小野さんにとって、クヌートという人物を演じた経験はいかがでしたか?

小野
この後の展開を含めて山場も多く、一筋縄ではいかない人物で、演じるのは容易なことではありませんでした。これまで僕はどちらかといえば、勢いがあって立ち上がって前へ前へ進んでいくトルフィンのような役柄を演じることが多かったのですが、クヌートはそれに対してもがきながら進んで行くタイプ。覚醒してからのこの後は、ある種の完成されたなかでの芝居になり、それらがいろいろと自分の中で挑戦することも多く、演じていて楽しかったキャラクターでした。