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「ヴィンランド・サガ」TVアニメ化記念!

シリーズ構成・脚本:瀬古浩司×アフタヌーン編集長:金井暁 船上スペシャルインタビュー

2019年7月7日(日)からの放送スタートが近づいてきたTVアニメ「ヴィンランド・サガ」。そんな中、本作でシリーズ構成と脚本を務める瀬古浩司氏と月刊アフタヌーン編集長の金井暁氏へのダブルインタビューが実現した。
瀬古氏はアニメ『いぬやしき』などの作品で籔田修平監督と度々タッグを組んでおり、金井氏は『プラネテス』時代から幸村氏を支える名編集者。共にアニメ「ヴィンランド・サガ」を深く語るにふさわしい人物だ。
そんな男たちが今、ヴァイキングの如く荒波の上に漕ぎ出した! ということで、今回はなんと船上インタビューです!

男の船が今、旅立つ!(撮影は都内某所、天気晴朗、波低し)

船上スペシャルインタビュー

INDEX

写真左から:金井氏、瀬古氏

――今回晴れて竜頭船? での船上対談となったわけですが、ボートの経験はおありでしたか? また、沖? に出るまでは二人でどんな話を?

金井
僕は娘を連れてよく来ているので、慣れたものですよ!
瀬古
僕はアフタヌーンの大ファンで毎月読んでいるので、ボートを漕ぎながら「あれが面白かったこれが面白かった、あのマンガはなんで終わっちゃったんですか!」と問い詰めていたところです(笑)。なんで僕の好きな作品から終わっていくんですか?!
金井
さっきからずっとクレームの嵐です(笑)。
「ヴィンランドのアニメ化は壮大なドッキリ」?

――お二人は以前からのお知り合いなんですね。どういったご関係ですか?

瀬古
『亜人』(講談社「good! アフタヌーン」連載)のアニメ化の際に構成を担当させてもらっていて、その時からのご縁ですね。5年くらい前でしょうか? 金井さんには打ち合わせに毎回来ていただいていました。
金井
『亜人』ではアニメオリジナル回があったので主にその監修だったんですが、瀬古さんには大変お世話になりました。そんな瀬古さんが「ヴィンランド・サガ」でシリーズ構成と脚本を担当してくださると聞いてとにかく有難かったですし、未だに幸村誠さんと「いや、瀬古さんがいらっしゃるからといってヴィンランドのアニメ化は壮大なドッキリではないという保証にはならないぞ」と話しています。

――えっ、このアニメ化、ドッキリなんですか!?

金井
先日関係者試写会で4話目まで拝見させていただきましたが、まだアニメ化は信じられませんね……アニメを4話も作るなんて今回のドッキリは手が込んでるなあと感心しきりです。連載が始まって13年くらいになりますが「アニメ化はないよ」とずっと言っていました。

――それはどうしてですか?

金井
だって作画のカロリーは高いし、必殺技があるわけでもないし、女の子のキャラクターは少ないし……実際、収録現場では男たちの罵詈雑言が飛び交っているような物語なので(笑)。

――確かに、昨今のアニメのトレンドではない作品かもしれませんね。

茨の道を歩むのが「ヴィンランド・サガ」アニメ化の正しい道
金井
真面目な話をすると「このアニメを作る人がいたとしたら、それはわざわざ茨の道を選んで裸足で歩くような人たちだろう」と思っていました。だから今回籔田監督やWIT STUDIOさん、瀬古さんというメンバーがアニメ化を担当するんだと聞いて、納得しました(笑)。

――瀬古さんは「ヴィンランド・サガ」のアニメ化を聞いたとき、どう思われましたか?

瀬古
僕はマガジン版の第1巻から読んでいました。『プラネテス』も読んでいたこともあって、友人から同じ方のヴァイキングものだよと薦められて読み、一撃でやられました。「この世にこんなに面白い第1話があるんだ!」と。僕の中では『ゴッド・ファーザー』とか『ダイ・ハード』と同じで「面白くないわけがない!」「殿堂入り!」という巨大な作品です。金井さんの言う通りアニメ化するとなると大変なことになると思っていたので、アニメ化を聞いた時は「ついにやるんだ!」という感じでしたね。

――そのアニメ化のお話がご自身に来たとき、どう感じられました?

瀬古
実は最初はお話を受けるべきかどうか、すごく迷いました。お話をいただいた時点で先々のスケジュールは全部埋まっていて、これ以上はもう入り切らない状態だったんです。どの作品もそうなのですが、「ヴィンランド・サガ」に関しては特に重厚な作品で、中途半端にやることはできない、しかも2クールあるし、もし受けてしまったらおそろしく大変なことになるのはわかってましたから。

――そんな中、最終的に作品に携わる決心をされたのはどういうきっかけがあったんですか?

瀬古
最初にウィット・スタジオさんからアニメ化についてのお話を頂いたのですが、その時にすでにどなたかが考えられたアニメ版でのストーリー構成の草案があって、それを聞いたときに……これ言っちゃっていいんですかね? 全然気に入らなかったんですよ! なんだよコレ、全然分かってねえな! と(笑)。
金井
えっ、その話僕知らない(笑)。
瀬古
そこでまず籔田監督とお会いして、「この構成だったら僕はできない、違うアプローチができるなら検討したい」と相談したところ、籔田監督自身もその草案が気に入っているわけではないということがわかり、そこからはトントン拍子で、僕だったらこうするというプラン、加えて猪原(健太)さんに脚本に入ってもらえればスケジュールの問題も解消できるので、それらの条件が整うならやります、とワガママを言わせてもらい、現在に至るという感じです。

――好きな作品だから即飛びついた! というわけではないんですね。

瀬古
「ヴィンランド・サガ」という作品を汚すわけにはいきませんからね。僕の提案させて頂いたプランも猪原さんの参加も、映像にするにあたって最良の形になるように追求した結果です。これは構成や脚本の問題だけでなく、籔田監督による繊細な日常描写の演技などを見ていても感じることですが、やはり一番いい形を求めた結果、茨の道を歩むのが「ヴィンランド・サガ」という作品をアニメ化する上では必須だったんだと思います。
原作の持つ没入感や喪失感が120%になっています

――先程、関係者試写会で4話目までご覧になったとおっしゃっていましたが、その時の感想を教えてください。

金井
原作にとても忠実に映像化してくださっていて、まさに茨の道を裸足で突き進んでいます(笑)。特にシリーズ構成である瀬古さんの仕事が効いていて、それによって原作の持つ没入感や喪失感が120%になっています。瀬古さんはスゴイな、と改めて思いましたね。本当に感謝しています。
瀬古
特に冒頭4話の構成は僕の中では勝負どころだったので、今、金井さんの言葉を聞いて正直ホッとしました。
金井
原作を読み込んでくださったというのもそうだと思うんですが、それ以上にトルフィンやトールズたちにリスペクトと愛情を込めてくださっているのが伝わってきて、それが本当に有難かったですね。だから4話目まで見終わった後、ちょっと人と話ができないくらいに胸に迫るものがありました。
金井
構成によって大河ドラマっぽくなっているのもそうなんですが、とにかくお話の喪失感や展開に対する納得感、没入感がすごいんですよ。ふと見たらトールズ役の松田(健一郎)さんが号泣。脚本の猪原さんも号泣。それを見て「これは絶対にうまくいくし、うまくいってるな」と確信しました。
瀬古
金井さんにそう言っていただけて無茶苦茶嬉しいです。
金井
うーん、僕が作者なわけじゃないからなあ。今日来るのは幸村さんの方が良かったんじゃない?(笑)
瀬古
いや、幸村さんは今回は完全に「お任せスタイル」なので、万一何か思うところや解釈が違うところがあっても口にはされない、絶対に「君たち、それは違うよ」ということは仰らないので。でも金井さんだったら……
金井
僕だって言わないよ!(笑)
瀬古
そうじゃなくて(笑)。金井さんもそんなに数多く意見される方じゃないんですがその分1つの意見がすごく的を射ていて、『亜人』の時から本質を一突きする方だと思ってるんです。超一流の編集者としていろんな作品に携わってきた金井さんの視点を僕は信頼しているので、今回認めてもらえて、ああよかった、と。
金井
……これ、スワンボートの上で男二人で話す話かなあ(笑)。
幸村さんからもらった「痛恨のミス一覧」!?

――アニメ化に際して、幸村先生はどういうお話をされたんでしょう? ドッキリかもというお話以外でお願いします。

金井
幸村さんのアニメ化に対するスタンスは明快で、アニメ化した時点でそれはアニメを作られるスタッフの皆さんの作品になるので、楽しんで見る側に回りたい、ということです。釘を差されたのは「金井さん、くれぐれもガチャガチャ言うなよ?」ということです(笑)。
瀬古
(笑)

――瀬古さんは作品制作の過程で幸村さんにお会いされたりはしたんですか?

瀬古
そうですね、企画が始まる一番最初にお会いして、以降打ち合わせなどにもご都合のつく限り参加していただいています。ただ、僕たちが作るものに対しては一切何もおっしゃらず、全て任せてくださるスタンスですね。

――打ち合わせの場ではどんなやり取りがあるんですか?

瀬古
内容そのものには何もおっしゃらないんですが、たとえば当時のキリスト教の立ち位置など「だから作中でこういう描写になっているんだよ」という解説をしていただいています。それがまた、当然ですが無茶苦茶詳しいんですよ。何を聞いても答えてくれる、講義をしていただいているような感じです。
金井
あちこちで言ってますけど、逆に「ここは失敗したんでアニメではお願いします」というのもありますよね(笑)。
瀬古
それは一番最初に文章でいただきました。「痛恨のミス一覧」という(笑)。

―― 一覧にするくらいあるんですか?

瀬古
いやそんなにはなくて、実際には5つか6つくらいでした。
金井
デンマークには山はない、とか。
瀬古
あとはトールズがどの時点で軍船を手に入れたか不明なので、トールズの所有物にはしないことにしましょうとか、神父と修道士の使い分けとかですね。本当に細かいというか誰も分からないレベルの微修正です。設定や物語よりは、どちらかというと画作りの面でのアドバイスが多かったんじゃないでしょうか?
金井
ありましたね。「クヌートを漫画より美人に描いてくれ」って言ってました。
瀬古
漫画でも十分美人ですけどね(笑)。

――原作通りじゃダメなんですかね??

金井
漫画ではどんどんヒゲ生やしたりしていくでしょ?「やめろよ! アニメに対するある種のネガキャンになるから!」って言うんですけど、本人は「そんなわけないでしょ!」とか言ってるんですよ。その辺り分かってないの(笑)。
冒頭のシーンが本当に綺麗で、そこから作品にすっと引き込まれる

――本当に漫画は漫画、アニメはアニメと先生の中では別個のものなのかもしれないですね。

金井
純粋に一つの作品として、あくまでいちファンとして楽しみたいという気持ちが強いらしいですね。先日の関係者試写会で作者も号泣してましたし(笑)。

――結局全員号泣してません?

金井
「あなた演じてましたよね?」「あなた自分で脚本書いてるでしょ?」って人たちが号泣してるんですもん(笑)。こんなに全員号泣しているという経験は、20年近く前に『セントラル・ステーション』という映画を見たとき以来ですね。
余談ですけど、『セントラル・ステーション』はブラジルの映画で、ブラジル人のみなさんが「俺たちの国の映画だぜイエーイ!」ってノリでビールとかガンガン飲みながら見始めたんですが、終わったら劇場の湿度が上がるくらいみんな涙でビショ濡れになってて。今回それに近かったですね。

――みんなグショグショ?

金井
大の大人、オッサンたちがみんなグショグショ。小汚さがひどい(笑)。で、出口のところに立ってる籔田監督だけがニヤニヤしてるの。ちょっとやらしくない!?(笑)
瀬古
籔田さんのしてやったり顔、目に浮かびます(笑)。
金井
悔しいですよね! でも冒頭のシーンが本当に綺麗で、そこから作品にすっと引き込まれるんですよね。いつの間にか没入していて、見ている時は編集目線だとか原作にコミットした人間としての目線だとかは全く無く見られました。
瀬古さん籔田さんはじめアニメ化をお引き受けくださったスタッフのみなさんには本当に感謝の念しかないです。改めてありがとうございますとお伝えしたい……たとえドッキリだったとしても。

――もうドッキリというタイミングではないですよ!(笑)

大の大人が本気で作っているということが伝わる作品

――それでは最後に、放送を楽しみにされているファンの皆様へメッセージをお願いいたします。

瀬古
良くも悪くも、最近のトレンドのアニメとはお話のテンポや語り口などがかなり異なって感じられるかもしれません。その分原作の持つ魅力をしっかり映像にしていただいているので、少しだけゆっくり、長い目でお付き合いいただけると嬉しいです。その分の満足度は必ずある作品だと思っていますので。宜しくお願いします。
金井
「ヴィンランド・サガ」は物語史上でも相当難しい状況に主人公が立たされるお話だと思っています。だからこそ、何か困難にぶつかったり厳しい状況にある、またはそういう経験のある方なら勇気づけられるお話だと思います。
また、大の大人が本気で作っているということがモロに伝わる作品だとも思います。「アニメだから」「漫画原作だから」ということは関係なく一つの物語として楽しんでいただける作品ですので、子供から大人まで多くの方に楽しんでいただけたら幸いです。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」
2019年7月7日(日)24:10よりNHK総合にて放送予定
※関西地方は24:45より 
※放送日時は変更になる可能性がございます
Amazon Prime Videoにて日本・海外独占配信
第1話:日本では7月6日(土)24:00頃より先行配信